#146 忘れ得ぬ人

2021年7月18日

 

早朝3時45分に目が覚める。

大広間の窓に目をやると星の輝きがまだ残っていた。

小屋の外に出ると彼方にオレンジ色の地平線が広がっており、テンションが上がった。

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気になる体の調子は、昨日の疲労は取れたものの、胸焼きなのか、ムカムカしてまだ吐き気がした。

さらに全身が鉛の状態で少し重く感じる。

相変わらず食欲が無い。

身支度を手際よくすませ、予定通り4時15分過ぎ小屋を後にした。

 

わかっていたことだが、出だしから急登の連続。

前を見ると登山道の傾斜がどんどん上がっていく。

真っ直ぐ急勾配なので、いかさか昨日のしつこい登り返しがないだけでも気持ちが楽だ。

 

登り始めの30分は絶景を楽しむ余裕があり、涼しくておいしい空気を吸い込んで登るのは気持ちいい。

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木曽殿山荘が小さく見えます。
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昨日の大苦戦した登り返し登山ルートが見えます。
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もうお馴染みの御嶽山ですね。
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まずは目の前の岩峰を乗り越えねば。

 

空木岳までの登山ルートは、急登の連続だが、岩登りが多い登山ルートでもある。

登り始めて40分あたりで息が上がり、足が止まってしまう。

さすがに昨日の朝、昼、夜、今朝の4連続食分の未摂取のツケがここにきて影響を受ける。当たり前だ。

 

明らかにエネルギー不足であることは明白であった。

小屋オーナーからいただいた朝弁当を手をつけようとした。

やはり嘔吐感があり、無理だった。

 

さぁどうするんだ。

やっぱり無理やから小屋に戻って連泊なのか。

指示通り動かない自分の足に対して焦りが出てきた。

 

その時だった。

竜雷太似の優男のBさんが追いついて一言発した。

「大丈夫ですか。無理しないように。マイペースでゆっくりと確実に前へ進みましょう」

そう言って自分を追い越し、Bさんの背中が遠くなってしまった。

 

ここで自分は青空に向かって呼吸を整える。

全神経を研ぎ澄ませて本気バージョンを醸し出す。

 

15分休憩後、登山再開する。

まずは目の前の鋭い岩峰に接近、通過を意識する。

難なくクリアしても立ちはだかる岩峰が次から次へと現れる。

連続する鎖、チェーンを巧みにコントロールしつつ、がっつり岩場を這い上がっては登り返しの連続。

 

自分の脳裏にBさんが発した、マイペースでゆっくりと確実に前へ の言葉が焼き付けて離れない。

妙な安心感を得た感じだった。

不思議だな。

 

難所にさしかかっては、心の中でBさんの言葉を唱えた。

するとフットワークが甦り、軽快なステップが戻ってきた。

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高度を上げる度に雲海は徐々に低くなっていく。
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この角度からの御嶽山は素晴らしい。
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ひとつ目の岩峰を通過。
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こんな感じで岩場をよじ登ります。

 

登り始めから1時間45分経過。

目の前に道標が見える。

もしかしたら空木岳山頂か。

まさかこんな楽に山頂に着くことはないだろう、まだ先だろうと自問自答した。

 

見覚えのある方が2人立っていた。

あれ!AさんとBさんではないか!

 

来た来た来たぞと発する二人の満面の笑顔がすこぶる眩しい。

AさんBさんであることを確認した後、自分は無意識に右手の拳を上げて勝鬨のサインを送った。

 

AさんとBさんは心配になって山頂で待っていたのだという。

Aさんは2時30分に小屋を出たので少なくとも2時間は山頂にいることになり、Bさんは30分山頂にいる計算となる。

 

そのことを考えると目頭が熱くなってきた。

お二人にお礼の言葉を述べた。

Bさんの一言で頑張り通したことができたこと、Aさんには心配させて2時間待たせてしまったことを。

 

お二人ともよかった、よかったと労いの言葉をいただいた。

お二人は、昨晩の自分の覇気の無い落ち込み、晩御飯を食べない自分を見ているだけに、空木岳の激しい登山ルートに耐えられないだろうと読んでいたようで目を白黒されていた。

 

Aさんから登山歴を聞かれたので百名山踏破を伝えたところ合点したようだった。

申し訳なくもAさんより空木岳山頂からの素晴らしい絶景をガイドしてくれた。

 

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Aさんに記念撮影してもらう。
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岐阜県側にある恵那山。

昨年10月に登山しただけに愛着がある。

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乗鞍岳は昨年8月に登ったなぁ。


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槍ヶ岳穂高連峰までくっきり。
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御嶽山と左に白山。
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昨日の苦しかった登山ルートを振り返る。

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雲海に浮かぶ南アルプス
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Aさんに勧められて山頂で最も高い岩山でガッツポーズ

 

お別れの時がきた。

お二人にがっちり握手を交わし、またどこかでお会いしましょうと山頂からお二人に手を振って見送った。

なんかドラマの世界に浸った自分が確かにそこにいたことは否めなかった。

 

いくつかの修羅場を乗り越え、数々の山を登ってきた自分であるが、今回の中央アルプス登山は決して忘れ去ることはできない、エポックな出来事だった。

 

空木岳は山仲間に支えられながらの登頂であり、自分の力では無い。

自分の登山スキル、体力が身にしみてわかった。

今回の山行は今後の登山方針を変える分岐点になるかもしれない。

それほど自分にとっては衝撃度が強かった。

 

その後は池山尾根を下る。

下り6時間は、体調も戻り足も絶好調だった。

通りすがりの登山者がラジオ放送の音量をあげていた。

耳をすますと、コロナ禍で今年の夏山は一人登山者が多く、不幸にも滑落事故が相次いでいる云々と流れていた。

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標高2864m空木岳山頂は広い。
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これから下山します。
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駒石から空木岳を振り返る
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さらにどんどん下ります。

この絶景ももうすぐ終わりだと思うと寂しくて。
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また来るぞ 空木岳
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唯一の水場でした。

頭の上からコップを流して行水したら生き返りました。
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緑が美しい樹林帯。
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ようやく登山口に着く。

 

最終ゴールの菅の平バスセンターまで決して気を緩めることなく、慎重に足を運び、16時予定より早く14時に最終ゴールに到達する。

 

振り返ると、今回の予想外の高山病、熱中症は過去にもあった。

2017年7月の新潟にある飯豊山(いいでさん)。

2020年8月の北アルプス最終日の新穂高ルート。

その日の体調もあろうが、潜在的にあるものと意識せざるを得ない。

 

ましてや今年還暦になる年でもあり、加齢とともに身体の変化は起きているのだろう。

今までのような活発な行動は控えるべきなのか。

 

とにかく安全対策をしっかり講じて、自分の身体をよく理解し、無理な計画だけは差し控えるべきだと考える。

 

おまけです。

帰りに山梨県一宮市国道20号線沿いで、お土産に桃を買いました。

写真のように理由あり価格ですが、12個で1500円で

お得感がありました。

ご主人が腰が低く、優しい方で桃、葡萄の栽培についていろいろと説明してくれました。

今度は葡萄(9月)を買いに立ち寄りたいと思っています。

興味のある方は是非とも立ち寄ってみてください。

お得感を体験できるかもしれませんよ。

 

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百名山88座 残り12座

本日の歩行距離13km 歩行時間9時間

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