#63 北アルプス紀行 燃える闘魂はガスを追い払う

2020年8月3日月曜日
北アルプス3日目

5時15分に太郎平小屋の朝食を済ませ、寝室に戻ってザックを担ごうと思った時にスナックお菓子2袋がザックの上に置いてあった。

とっさにTさんの心づくしと悟った。
すぐさま食堂に戻り、Tさんにお礼を言う。
Tさんは玄関で柔和な笑顔で見送ってくれた。

Tさんの優しい気持ちに涙する。
なんとしても黒部五郎岳を踏破すると炎が燃え上がる。

今日は標高2840mの百名山である黒部五郎岳に登る。黒部五郎岳までは5時間のコースタイムであり、黒部五郎岳から今晩宿泊の黒部五郎小舎まで2時間の合計7時間のコースタイムである。

5時20分に太郎平小屋を出発し、早朝から快晴であったが1時間経過後、ガスが出てきた。
最初のピークである北ノ俣岳は、出発時はよく見えたのだが、徐々にガスに覆われ、見え隠れする。
Tさんの天気予報通りだった。

草原をゆっくり進むと途中から北ノ俣岳への急登が
続くが、北ノ俣岳までの30分あたりから雪渓と高山植物が入り乱れたお花畑を気持ちよく歩く。
7時20分に北ノ俣岳頂上に着いたが、ガスで何も見えず。

気を取り直して赤木岳から中俣乗越までのしつこいアップダウンを1時間で乗り越える。
この稜線は、晴れていれば展望がいいのだが、あいにくガスで何も見えない。
途中で雷鳥親子に遭遇し、しばし感動する。
ここまでの登山ルートは計画通りであり、体調も足も好調だ。
あとはガスがいつ晴れるかだ。

中俣乗越からいよいよ黒部五郎岳までの胸が突かれるほどの標高差400mの急登を2時間かけて登る。
一歩づつ登るごとに傾斜がきつくなる。
まるで地を這うよう登り続ける。
山頂から下山したパーティーは全員笑顔がない。
ガスで視界ゼロだから気持ちがよくわかる。
俺もそうなるのかと心が折れそうになる。

ガスで前方3m先は真っ白で視界がない。
自分がどこにいるのか、そしてどこまで登っているのか、まるでわからない状況だ。
かろうじて見えるガレ場のペンキマークを追うように前へ進む。
標高差400mの急登を1時間30分耐え続け、頭が少し朦朧とする。
ザック14kgの重さは徐々に両肩に負担をかけ、体力を奪っていく。

自分の前は、誰もいない。
っていうかいるのか?
ガスで何も見えない世界と心の中で孤独に闘う自分が交錯する。
めげそうになる自分を叱咤激励し、ひたすら前へ進む。

1時間30分の激戦を制し、黒部五郎岳の肩に着く。
ここからは20分登れば黒部五郎岳山頂だ。
あの分厚いガスが抜け出してきた。
そしてついに黒部五郎岳をとらえる。

笑いをこらえるように一歩づつ進み、ついに登頂する。
ガスは徐々に抜けて青空が少しづつ広がりつつある。
薬師岳、三俣蓮華岳鷲羽岳水晶岳の姿が少しずつ現れてきた。
振り返ると太郎平小屋から北ノ俣岳を経て黒部五郎岳までの辿ったルートが見える。
連泊した太郎平小屋も見えるのではないか。
Tさんに登頂テレパシーを送る。
Tさん、さぞかし喜んでくださることだろう。

黒部五郎岳山頂では様々な方々と知り合う。
キリマンジャロ、マッキンレー等世界の名峰を踏破した長野県在住の65歳過ぎの男性は、語り口が落語の世界でその場の雰囲気を明るくしてくれた。
また、神奈川県在住の女性のYさんは昨年百名山を達成したという。
今晩は奇しくも同じ小屋に泊まるので百名山踏破のアドバイスをいただけるそうだ。

なんだかんだ言って山頂に居合わせた登山者と1時間雑談し、とても楽しかった。
その後は黒部五郎岳の肩付近の草むらで雲海のパノラマを楽しみ、そして1時間ほど昼寝した。

13時過ぎに目覚め、黒部五郎カールの中をダラダラ2時間歩く。
黒部五郎カールは巨岩に囲まれていて、まさに秘境の世界だった。
下山途中で時折り、小沢を渡渉しては、コップで掬って飲む。
これが冷たくて旨いのだ。
そこらのコンビニの天然水ペットボトルとはわけが違う。
黒部五郎カールの沢水ですっかり疲労回復し、15時過ぎに黒部五郎小舎に着く。

明日は鷲羽岳水晶岳への体力勝負の縦走なので早めに寝ることにしよう。

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早朝は快晴で前方の北ノ俣岳がよく見えた。
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北ノ俣岳付近の雪渓と高山植物です。
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北ノ俣岳山頂はガスでした。
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赤木岳から先は黒部五郎岳もガスで見えません。
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雷鳥に遭遇。頑張れと励まされたような。
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ついに黒部五郎岳をとらえる。
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念願の黒部五郎岳山頂です。
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中俣乗越から標高差400mの2時間の急登ルートを振り返る。
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薬師岳、太郎平、北ノ俣岳の稜線です。
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稜線上に連泊した太郎平小屋が見えます。
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薬師岳は王者の風格があります。
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三俣蓮華岳の稜線です。赤い屋根は、今晩泊まる黒部五郎小舎です。
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水晶岳から赤牛岳の稜線です。赤い屋根の小屋は雲の平です。
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水晶岳と雲の平です。
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山風景に感動する。
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黒部五郎カールを下山します。
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黒部五郎カールの巨岩に圧倒され、まさに秘境でした。
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黒部五郎小舎はメルヘンの世界に立っていました。
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晩飯は豚カツでした。蕎麦もついて旨かった。