2020年8月1日土曜日
北アルプス一日目
予定通り23時15分新宿発の金沢駅行きの夜行バスは、2年ぶりに富山駅に5時45分に着いた。
富山駅の南口は拡張されてきれいになっていた。
富山駅から富山電鉄に乗り換えて6時12分発の立山行きに乗車し、地方特有のローカル線を満喫する。
ローカル線は、登山者に独占されてほぼ満員。
登山者の一人ひとりの顔の表情は、待ち焦がれた梅雨明けの青空に笑顔がこぼれている。
1時間ほどで有峰口駅を下車し、折立行きの路線バスに乗車し、ようやく北アルプス登山口に着いたのは、8時10分だった。
新宿から9時間を要することになる。
とてつもなく長く感じた。
2年前の2018年8月にも同じ登山口から登っているので土地勘はある。
いきなりの樹林帯の急登を辛抱強く登れば1時間40分で最初の見晴台である三角点に着くが、ガスで何も見えない。
あれっ梅雨明けていないのか?
若干不安になる。
雲の平方面から下山したすれ違いの登山者たちは、一様に顔色が冴えない。
訊くと、雲の平や、薬師岳等数日テント泊まりもずっと雨に降られたという。
例年であるならば夏山は、7月20日過ぎに梅雨が明けて真っ青な空が広がるはずなのだが、今年の梅雨は異常に長い。
登山者の誰もが、7月下旬に梅雨明けを信じていたが、当てがはずれたようだ。
下を向いて悲しそうな顔を見ると胸が痛くなる。
対面の一人の40歳過ぎの男性から声をかけられる。
「今日から梅雨明けで良かったですね。絶景が楽しみですね。自分は会社の夏休みが決まっているため、この期間しかチャンスがなかったもんで。楽しんでください。」
男性の心優しい言葉が身に沁みる。
いくつかの樹林帯から抜け出すと青々とした草原に出る。
なだらかな丘陵の上には、夏雲が青空を添えて池塘の水面に映り、湧き上がる映像に息を呑む。
この一本道を3時間登れば今日の宿泊地である標高2328mの太郎平小屋に着く。
前方に標高2926mの百名山である薬師岳が大きく待ち構えていた。
2年前に、よもやの悪天候で途中で撤退した因縁の山である。
明日は薬師岳を雪辱すると心に燃える🔥
撤退した無念の思いは、ようやく晴らす時が来たのだ。
太郎平小屋に12時30分頃に着いた。
夕食までたっぷり時間があるので太郎平小屋周辺の高山植物を観賞しつつ、ゆっくり過ごす。
明日から本格的な登山開始になるので終始リラックスする。
太郎平小屋は、コロナ感染拡大防止のため、定員200人の半分以下に抑えていたものの、一日平均60人から70人の宿泊であり、大幅売上減にマスターが嘆いていた。
玄関入口には消毒液が備えつけられており、寝る部屋の隣の部屋はスペースを空けるという三密対策をとっていた。
しかも用意された山小屋のふとんをそのまま寝るのではなく、登山者が持参したシュラフ(寝袋)に潜ってからふとんに入るように説明を受ける。
ふとんとの接触を避けるためであり、シュラフを持参しない登山者は宿泊禁止となる徹底したコロナ対策であった。
従来の小屋泊まりの雰囲気ではない。
ただならぬ空気に気が引いた。
ところで、最近は女性のソロ山行が目につく。
夕方に太郎平小屋より少し離れた木道で出会った、愛知から来た30歳半ば過ぎの女性は、百名山まで残り15座とかいう。
華奢な体にもかかわらず、足腰が強く、根性もある。
彼女との山談義が楽しかった。
気がついたら30分立ち話をしていた。
彼女はテント泊まりなので、またどこかで再会を祈念してその場を別れた。
山小屋のビールを一杯ご馳走すればよかったと後悔した。
また、山小屋で出会った静岡から来た20歳後半の女性は、新穂高温泉から黒部五郎岳小屋まで登ってそこで泊まり、さらにここ太郎平小屋まで歩いて薬師岳を登頂した健脚者がいた。
やや小柄な女性であるが、どこからそんなエネルギーが出てくるのが不思議である。
とても笑顔が可愛い素敵な女性だった。
彼女達から励ましのエールをもらう。
何か勇気をもらった気分になる。
今回の富山、長野、岐阜に跨がる5泊6日の山旅が成功することを切に望んだ。
太郎平小屋の天気掲示板で、明日の天気は午前中晴れで午後は曇り空だという。
午前中が勝負だと、宿泊者の誰かが言っていた。
山小屋の消灯は早い。
宿泊者たちは20時過ぎに寝床につく。
明日はどうか絶景が見れますように。
富山駅前のロータリー。
富山電鉄に乗る登山者は例年より少ない感じです。
今回の北アルプス縦走は、この折立登山口から始まる。
高山植物と眩しすぎる夏雲
前方の稜線は3日後に縦走する。
右から北ノ俣岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、鷲羽岳、水晶岳の裏銀座コースです。
今晩泊まる太郎平小屋です。
明日登る薬師岳です。どっしり構えて堂々としていた。
天に通ずる道かな。
今晩の夕食は豚カツでした。ごちそうさまでした。